「2021年版の取材を振り返って」Vol.8～関西編～

実走取材での出会い

2020年の実走取材では、ぜひ会ってみたい人がいました。 彫刻家の安藤榮作さんです。 東京芸術大学彫刻科を卒業、1989年にいわき市の山間部に家族で移住、その後2008年にいわき市の海沿い、久ノ浜に自宅兼アトリエを構えたものの、2011年の東日本大震災の津波ですべて流され、奈良県明日香村に避難移住（現在は天理市に移転）された方です。 安藤さんは丸太を手斧で大胆に叩いて刻んでいく技法で力強い作品を創り出し、2017年に第29回平櫛田中賞、2019年には第10回円空賞を受賞しています。そういえば、安藤さんの作品は江戸時代に活躍した円空の作品を彷彿とさせます。奥様は、同じく彫刻家の長谷川浩子さん。荒々しい作風の安藤さんとは対照的に、曲面が多くツルツルした白い作品が特徴です。 私が、最初に安藤さんのことを知ったのは、何年か前のバイクツーリング雑誌「アウトライダー」の記事でした。福島での津波被災体験を経て明日香村に移住した経緯とともに、ハンターカブの「ツバサ号」で奈良の里山を楽しくツーリングしている様子が綴られていました。その記事を通して、なんだかいろんなことが伝わってきたのです。 撮影は、福島原発の被災地とチェルノブイリ原発事故の被災地を撮り続けている、スージーこと中筋純氏。お2人の、福島に対する思いが、今も福島に住む私に共鳴したのかもしれません。私も福島で被災し、地震で自宅が大規模半壊になったものの、その後も同じ場所で普通に暮らしています。安藤さんのように、津波でそれまでの何もかもを失ってしまうというのは、どういう気持ちだったのか、想像もできません。

山野辺の道。長岳寺前にて。「ツバサ号」と安藤さん。

その後、SNSで繋がってはいたものの直接会ったこともないし、いきなり訪ねていくのは失礼ではないだろうか、コロナ感染リスクもあるしなあ、と悩みつつ、「でも、人生いつ死ぬかわからないし、会いたい人には会っておきたい」という気持ちが強くなり、思い切って前日に奈良のホテルからメッセージしてみると、訪問を快諾してくださったのです。 翌日、ワクワクしながら天理市内にある安藤さんのアトリエを訪ねると、作業場にはたくさんの大きな作品が無造作に置かれ、材料の丸太がゴロゴロ転がっていました。このほかにも、アトリエには入り切らない大きな作品もあるのだそうです。コロナ禍で注目された「アマビエ」や、津波で流されて亡くなった、安藤さんの愛犬「ユイ」ちゃんを象った作品もありました。本来ならば、しかるべく会場にうやうやしく飾られている芸術作品を、間近に見られるだけでもすごいことなのに、作家本人と直接話ができるとは感動でした！ 芸術家というと少々気難しいところもあるのかなと思っていましたが、安藤さんはとっても気さくな方で私のカブ110ccと、ツバサ号でプチツーリングすることになりました。安藤さんがよく行くという桃尾の滝や山の辺の道・長岳寺などを案内してもらい、一緒にランチを食べ、初秋の奈良を堪能しました。ついでに、安藤さん馴染みのバイク屋さんに連れていってもらい、減っていたリアタイヤの交換までお願いしちゃいました。展示会の作品製作でお忙しい中、本当にお世話になりました～。

安藤さんのアトリエにて。抱きかかえているのが、津波で亡くなった愛犬「ユイちゃん」の木像

こうして置いてみると、ユイちゃんが走っている姿になります

奥様の長谷川浩子さんの作品

桃尾の滝にて。国道からすぐなのに、深山幽谷の趣

昨年の取材中には、ほかにも舞鶴での女子飲み会＆ツーリングも楽しかったし、ライダーハウス志摩で、大阪の金ちゃんや京都の一平ちゃんと一緒に宴会できたのも、いい思い出になりました。コロナ禍のため、家に引きこもる時間がいつもの年より長かったせいで、誰かと直接会って話したり一緒に行動することが、なんだかとっても貴重に感じられました。人との出会いも、旅の大きなエッセンスなんだ、と改めて気づかされた次第です。 一人のほうが気楽だからと、もっぱらソロツーリング派の私ですが、誰かと一緒のツーリングも、いいものですね。そんなわけで、このコラムを読んでいる誰か、2021年の8～9月あたりに関西在住の方に私から突然、連絡が行くかもしれませんが、都合が合えば、ぜひ会ってやってくださいね！

舞鶴で女子会ツーリング

【取材・撮影協力】

車輌：CABALLERO Scrambler500（モータリスト） ヘルメット：JFORCEⅣREFINADO（SHOEI） ウェア・グローブ・靴：アメニタジャケット/エクスパンドライダーズパンツ/ライダーズグローブ/アドーネシューズ（クシタニ）