2021.03.08

「2021年度版の取材を振り返って」Vol.1~東北編~

コロナ禍の中で例年よりも大変な状況で進めていた、ツーリングマップル2021年度版の表紙撮影、実走取材。 「2021年版の取材を振り返って」をテーマに、各著者が感じたことについて語ってもらいます。 第1回は東北担当の賀曽利隆さんから表紙撮影の1日目の話しです。

著・賀曽利隆

2020年表紙撮影1日目


8月11日、いよいよ2021年版『ツーリングマップル東北』実走取材のメインイベント開始。巣山カメラマンとの表紙撮影の3日間が始まった。我々は8時に東北道の白河ICで落ち合う約束をした。東北の玄関口の白河から北上し、奥羽山脈の峠を越え、青森まで走るというのが今回の一番の目的だ。 「新型コロナが何だ!」と、やる気満々のカソリ、前夜は新菊島温泉(鏡石町)に泊まった。朝湯に入り、早めにしてもらった朝食を食べ、7時に新菊島温泉を出発。カソリの相棒は黄色いスズキのVストローム250。7時30分には白河ICに到着。7時45分には赤いVストローム250に乗った渡辺哲さんが来てくれた。 渡辺さんには前夜、電話をもらったが、「ぜひとも同行させて欲しい」という。「300日3000湯」や「鵜ノ子岬→尻屋崎」などで何度となく同行してくれている渡辺さんなので、「どうぞ、どうぞ!」と喜んでOKした。それともうひとつの理由は、赤と黄色、2台のVストロームはじつに見栄えがするからだ。峠や絶景ポイントでの止めの写真は、巣山カメラマンに2台、並べて撮ってもらおう。渡辺さんには『ツーリングマップル東北』のページを開き、簡単にコースの説明をした。 巣山カメラマンは時間に正確な人で、どんな時間でも、どんな場所でも、ドンピシャで待ち合わせポイントに来てくれる。というよりも巣山カメラマンの方が先に来てくれていることが多い。ところが8時になっても現れない。約束が8時ならば、普通だったら10分とか15分待って電話するが、何しろ相手は時間に正確な巣山カメラマンなので、8時ピッタリに電話した。 「もしもし、巣山さん、今どこ!?」 「カソリさん!おはようございます。料金所を出たところで待ってますよ」 「え~?巣山さん、ぼくもいつものように、料金所を出たところにいますよ!」 ここで初めて、我々は待ち合わせ場所を間違えたことに気が付いた。白河と白石。カソリは福島県の白河ICだと思い込んでいたし、巣山カメラマンは宮城県の白石ICだと聞き違えたようだ。「カソリ&巣山」は阿吽の呼吸で、簡単な電話一本でお互いにわかり合うことができる。相手が巣山カメラマンだと、確認し合うようなこともない。神社の狛犬のような二人なのだ。 このあとの「カソリ&巣山」は凄い。即断即決だ。間髪を入れず、巣山カメラマンには 「集合場所を変えましょう。東北道の福島西ICにしましょう」 と言った。集合時間は9時だ。 白河ICから85キロ走り、福島西ICに到着した。集合場所を福島西ICに変えたのは大正解だ。まさに「巣山日和」で、福島の上空は抜けるような青空。吸い込まれそうになるほどの青さなのだ。国道115号で土湯峠へ。ここで巣山カメラマンは大満足の写真を何枚も撮ることになる。

スコーンと青空が広がった土湯峠(東北19B-2)で表紙撮影開始!

ということで、奥羽山脈の峠越えの第1日目は、「白河→福島」が「福島→白河」になった。いや~、じつにおもしろいではないか。土湯峠から母成(ぼなり)峠、中山峠(国道49号)、御霊櫃(ごれいびつ)峠、三森(さんもり)峠と越え、会津街道(白河街道)の御代(みよ)宿に出た。 郡山市湖南町三代にある「えびな食堂」で昼食。「ひやし中華」を食べた。季節限定の「冷やし中華」はカソリの大好物。夏の実走取材では各地で何度、食べたことか。その中でも忘れられないのが渡辺さんと一緒に食べた「えびな食堂」の「ひやし中華」なのだ。巣山カメラマンの撮ってくれた写真が凄くいい。渡辺さんんと二人でうまそうに食べている。「賀曽利&渡辺」の笑顔がまた凄くいい。「食」の持つ大きな力を感じさせてくれる1枚だ。

母成峠の駐車場そばに建つ母成峠古戦場碑(東北19B-5)

会津を代表する湖、猪苗代湖畔を走る

カソリおすすめの一品、えびな食堂(東北13J-4)のひやし中華、うまそう~

「えびな食堂」の「ひやし中華」に大満足して三代から国道297号(会津街道)で勢至堂(せいしどう)峠に向かっていく。 峠はドラマだ。勢至堂峠の新道と旧道(通行止)の撮影をしていると、車が1台、止まった。降りてきた若い女性は、何と「カソリさ~ん!」と声を上げながら、ぼくの方に駆け寄ってくるではないか。「福島美人」の真由美さんだ。我々は峠で熱き抱擁。「白昼夢」を見ているようだ。巣山カメラマンはあっけにとられていたが、写真を撮ることは忘れない。真由美さんとは南会津で毎年開催されている、「ひめさゆりバイクミーティング」で何度か会っている。残念ながら2020年は「新型コロナ」の影響で中止になったが、真由美さんとは再会を約束して勢至堂峠で別れた。胸がジーンとしてくる峠での別れだった。 このあと鳳坂(ほうさか)峠、甲子峠を越えて16時45分に白河ICに戻ってきた。ここまでの走行距離は311キロだ。我々は白河IC到着を喜んではいられない。すぐさま東北道を北上し、白石ICへ。130キロを走って、18時15分、白石ICに到着。すばやく宿を探し、町のスーパーで夕食用の食材を買い、日暮れの白石川を渡った。

国道118号の鳳坂峠を会津側に下ると羽鳥湖が見えてくる

橋の上から見る残照の白石川は、昨年の実走取材では一番の美景といっていい。橋の上に2台のVストロームを並べたが、撮影を終えた巣山カメラマンの顔には歓喜の表情が浮かんでいた。巣山カメラマンはこの夕景を狙っていたのだが、「よくぞ間に合った!」と、ぼくはトコトン美景を追い求める巣山カメラマンの執念に感動した。

見よ、この美景を!(29M-5)

白石温泉「薬師の湯」が今晩の宿。宿に入ると、まずは大浴場と露天風呂の湯にどっぷりつかった。湯から上がると、3人での宴会開始。缶ビールで「乾杯!」。「旅はドラマだ!」と、我々は気分を爆発させて「乾杯!」を繰り返す。缶ビールを何本も飲み干すと、今度は地酒の「蔵王」をくみかわす。「蔵王」を飲みながら、焼鳥や刺身の盛り合わせ、握りずし、サラダなどを食べつくすのだった。最後は福島の桃。とろけるような甘さが口の中いっぱいに広がる。 大宴会が終わると、巣山カメラマンは今日一日の写真を見せてくれた。 「巣山さん、表紙撮影は今日一日で、十分じゃないですか。これだけで何冊分もの表紙になりますよ!」とぼくが言うと、巣山カメラマンは「そうでしょ!」と言いたげな顔をする。渡辺さんとは「2台のバイクが表紙になるといいね」と夢見るのだった。

さー、宴会開始!

【取材・撮影協力】


車輌:Vストローム250ABS(スズキ) ヘルメット:ツアークロス3 デパーチャー(アライヘルメット) ウェア:ツーリングマスタージャケット/ツーリングマスターパンツ(風間深志事務所) 靴:フラミンゴRIN-001(ワイルドウィング)

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