2021.04.12

「2021年版の取材を振り返って」Vol.10~中部北陸編~

「2021年版の取材を振り返って」をテーマに、各著者が感じたことについて語ってもらうシリーズの第10回。今回も中部北陸担当の内田さんからのお話です。

著・内田一成

2020年の実走取材を回想


私の場合は、例年の取材は6月上旬に動き始めて、8月末から9月上旬に終了するというパターンなのだが、前回も触れたように、今年はスタートが2カ月近く遅れたため、全体のスケジュールがそのままスライドして、11月上旬まで動くことになった。 例年の取材は、殺人的な夏の暑さと熱帯のスコールのような豪雨やそれによる災害に悩まされることが多く、それが年々酷くなっていくので、前々から、もっと取材期間を幅広く取れたらいいのにと思っていた。 理想をいえば、ゴールデンウィーク直後から動き出して、昨年同様、11月上旬終了というパターンなら、余裕を持って条件のいい時を選んで取材できる。もう10年以上前になるが、3号で終わってしまった月刊の『ツーリングマップル・マガジン』のコンセプトは、月刊誌で通年取材して、そのエッセンスをツーリングマップル本体に活かそうというものだったが、それが頓挫してしまったのは返す返すも残念だった。

今年は、その意味では、真夏の厳しい条件を避けて、ツーリングのベストシーズンである秋が取材日程のコアになったのは、怪我の功名ともいえた。 爽やかな気候で、空気はキンと引き締まって風景も透明度が高い。そして、日を追うごとに、山は紅葉に染まっていく。夏から秋へ、そして初冬の気配が感じられるまでの間をツーリングしたのもじつに久しぶりで、個人的にもとても快適で楽しめる取材だった。 コロナ禍にあって、営業している飲食店などが少なく、また県外の客はお断りといった不便な場面もあったが、それでも風景の美しさがそれを補ってくれた。 また、そんな環境だと、先を急がず、じっくり時間をかけて楽しむ気持ちも生まれた。

SSTRなどもあってライダーのメッカになっている能登の千里浜では、早朝に訪れて、開いたばかりの浜小屋で香ばしい貝焼きを朝食にいただいた。 浜小屋のおばちゃんとしばし話に花を咲かせていると、北前船についての立派な研究書を出してきて、「これ、私が持っていても難しくてあんまりわからないんだけど、あんたなら何かの役に立つんじゃないか」などと頂戴した。ちょうど北前船と能登半島の繁栄について調べているところで、それにぴったりの研究書をもらって、びっくりした。暑さにめげて、ノルマをこなさなければと急いた旅では、そんな出会いはなかっただろう。 それから能登半島を一周して、また千里浜に戻ってきたが、そのときは、道の駅で買った地元の味を堪能しながら、持参のコーヒーを淹れて、ゆったりと沈む夕日を眺めていた。 これまで何度か、表紙撮影の候補として、開田高原から遠望する御嶽山の勇姿を狙ったが、なかなか全貌を見せてくれず、晴れても湿気の多い空気のためにクリアな写真にならずに諦めた。今回は、残念ながらカメラマンがいなくて表紙にはできなかったけれど、素晴らしく澄んだ空気の中にその雄大な姿がくっきりと浮かび上がった。 しかも、頂上付近はうっすら冠雪し、中腹は紅葉に染まり、山麓は緑と、三段染めの見事な景色が広がっていた。それだけではなく、真っ青な空と、それを映す清流、清流の瀬では白波が立って、「これぞ秋」といった風景が広がっていた。

千里浜の浜小屋で焼き白貝と焼きハマグリを

美しい姿を見せてくれた御嶽山

また、今も続く新型コロナのパンデミックという異常事態の中で、みんな得体のしれない不安を抱えているせいもあって、旅先で出会う人たちとそんな時代に共に生きているという共感のようなものがあって、いつもは事務的な話で終わってしまうような出会いが、濃いものになったのも印象的だった。 下諏訪のとあるカフェでは、入り口に「長野県民以外はお断り」という看板があったが、「やっぱり首都圏からだと駄目ですよね」とダメ元で尋ねると、わざわざテラス席を設えてくれて、特製のスイーツまでサービスしてくれた。そして、コロナの話から、店を作るきっかけについての話になり、「下諏訪の商店街には都会から若い人が移り住んで、地元の人と仲良くやりながら、個性的な店をやっているんですよ」などと、いろいろガイダンスしてくれた。 そんな人とのふれあいがたくさんあるシーズンだった。

前回も同じようなことを書いたけれど、昔のツーリングは、スケジュールに縛られることもなく、またいきあたりばったりで、いろんな出会いがあり、まだ若かった私は、そんな経験を通して、世の中にはいろんな生き方をしている人たちがいることを知り、そんなことが旅の楽しさだとしみじみ思ったものだった。 風景にしても、人との出会いにしても、やっぱりゆったりとした気持ちでいないと、せっかくの機会を十分に楽しむことはできないなと、そんなことを実感した。 今年の取材もまたどうなるかわからないが、2020年の取材で思い出した昔の気分はそのままに、またゆったりと巡りたいと思う。

【取材・撮影協力】


車輌:テネレ700ABS(ヤマハ発動機) ヘルメット:ツアークロス3ビジョン(アライヘルメット) ウェア・グローブ:コットンライダース/コットンカーゴパンツ/アーバンスタイルサマーグローブ(パワーエイジ) バッグほか:ムーンライトテント2型/ドライウエストバッグ/ドライダッフル(モンベル)

関連記事