2019.08.29

『男はつらいよ』寅さんの温泉 - 勝手にセレクト!極私的テーマ別温泉」by 滝野沢優子 vol.02

国内外問わず、さまざまな温泉をまわっている滝野沢優子さん(ツーリングマップル関西担当)による、「テーマ別おすすめ温泉」紹介。映画の舞台やモデルになった温泉から、特殊な立地や外観を持った温泉など、様々なテーマに応じた温泉が登場!温泉ソムリエの資格も持つ滝野沢さんのおススメを参考に、温泉ツーリングに出かけてみては!?

著・滝野沢優子

第2回 映画『男はつらいよ』シリーズの舞台となった温泉


今からちょうど10年前、私は昭文社の“まっぷるナビゲーター”として、温泉ブログを担当していました。その取材であちこちの温泉を訪ね歩くうちに温泉にますます興味を持ち、「日本温泉地域学会」に入会し、以来半年ごとに全国各地の温泉地で開催される研究発表会にも参加しています。 学会には温泉界の重鎮も多く、私などは場にそぐわない感が半端ありませんが、学会の理事でもある温泉ライターの西村りえ氏とは、「ねこ温泉いぬ温泉」企画を一緒にやったりと、なにかと仲良くさせてもらっています。 その西村氏、「男はつらいよ」の大ファンで、全シリーズ48作品を何度も見ているだけでなく、映画に登場する温泉を研究。学会で発表までしてしまいました。 私もその取材に付き合わされているうちに、“寅さんと温泉”はとっても縁が深いことがわかりました。それまではとくに興味がなかった「男はつらいよ」シリーズに登場する温泉地を意識するようになったのです。 また温泉地に限らず「男はつらいよ」は、古き良き昭和の時代を知る資料としても、かなり貴重なものだと再認識した次第です。 「男はつらいよ」 松竹公式サイトは→こちら ※「寅さん名ゼリフ」には素敵なフレーズが満載! さて、シリーズ48作品中、温泉が重要な舞台となるのは以下の8作品です。(※シリーズタイトル「男はつらいよ」は省略しています。) ■第3作『フーテンの寅』(1970年):湯の山温泉(三重県) ■第13作『寅次郎恋やつれ』(1974年):温泉津(ゆのつ)温泉(島根県) ■第21作『寅次郎わが道をゆく』(1978年):田ノ原温泉(熊本県) ■第30作『花も嵐も寅次郎』(1982年):湯平(ゆのひら)温泉(大分県) ■第36作『柴又より愛をこめて』(1985年):地鉈(じなた)温泉(東京都式根島) ■第38作『知床慕情』(1987年):カムイワッカ温泉(北海道) ■第42作『ぼくの伯父さん』(1989年):古湯(ふるゆ)温泉(佐賀県) ■第43作『寅次郎の休日』(1990年):天ヶ瀬温泉(大分県) ほかにもサブ的に登場する温泉地がたくさんあるので、これからも注意して見てみようと思います。 寅さんに関しては、ぽっと出の私などより、専門としている西村りえさんのほうが的確にチョイスしてくれるので、【ベスト3】を選んでもらいました。映画の詳しい内容説明は省きますので、配信サービスで検索するかDVDで観賞してくださいね(なんとなく、VHSで見たい気もしますが・・・笑)。 第30作『花も嵐も寅次郎』 湯平(ゆのひら)温泉(大分県) 大分の温泉といえば、別府や湯布院が有名ですが、じみ~に存在感を主張しているのが、湯平温泉。

湯の平温泉の風景

東京の原宿みたいに賑やかな「湯布院」から10km足らずの距離なのに、江戸時代に造られた石畳の坂道の両側に旅館や土産物屋、共同湯などが並ぶ、昔懐かしい雰囲気の温泉街です。 小さな温泉街にしては共同湯が5つもあるのが素晴らしい!現在もそれほど変わってないのもうれしいですね。 この映画のマドンナは田中裕子。若き日のイケメンすぎる沢田研二も登場し、この共演がきっかけで2人は結婚することになりました。 第21作『寅次郎わが道をゆく』 田ノ原温泉「大朗館」(熊本県)

田の原温泉 大朗館「笹のしずく」

大人気の黒川温泉のすぐ近くにありながら、正反対にひなびすぎた温泉地です。ロケ地となった田ノ原温泉「大朗館」も今も営業中とはいえ、寂れ感は半端なし。共同湯は1カ所。 マドンナは木の実ナナ。SKD(松竹少女歌劇)の踊り子という設定で、きっとタイアップしていたんだろうと思いますが、華やかなレヴュー(歌劇ショー)は必見です。(「SKD」って、ここ10年程、似たような名前のアイドルグループがたくさんいますね・・・笑) 若き日の武田鉄矢も「田舎で酪農をしている失恋青年」という役で出演していますが、渥美清に武田鉄矢!それに木の実ナナって!濃すぎるキャラクターが勢ぞろいの作品です。 第36作『柴又より愛をこめて』 地鉈(じなた)温泉(東京都式根島)

地鉈温泉(いつの写真だろうか・・・)式根島といえば、バブルの頃は「ナンパ」の島で有名でした。 その印象が強くて温泉のイメージはまったくなかったのですが、海岸の岩場に湧く野趣たっぷりのロケーションと、鉄分を含む赤褐色の湯のコラボが印象的すぎて、以後、全国的に知名度が上がり、温泉好きにはすっかり有名になりました。 源泉は高温ですが潮の満ち引きに応じて海水と混ざり合い、適度な湯かげんになるそうです。 マドンナは栗原小巻。「24の瞳」に憧れて島の教師になったという役どころです。美保純も準主役(マドンナ?)で出演しています。 式根島、若い頃に行きそびれたままので、近いうちにぜひぜひ訪れたいと思っています。ナンパされちゃったらどうしよう~? さて、ここまで西村さんセレクトの温泉地を紹介しましたが、私的おすすめも一つ・・・ 第13作『寅次郎恋やつれ』 温泉津温泉(島根県温泉津町) 湯野津温泉は世界遺産「石見銀山とその文化的景観」の一部として登録されています。銀の積出港として賑わったのだそうで、温泉街としては唯一の世界遺産です。

温泉津温泉の夕景

昔懐かしいままの街並みの中に、湯治場風情の「元湯泉薬湯」と、大正浪漫風の西洋建築「薬師湯」の2つの共同湯があります。 源泉は別ですが、どちらも茶褐色の土類泉が源泉掛け流しという、素晴らしい温泉なのです。 映画の中で寅さんが番頭を務めた旅館「後楽」も実在し、現在も営業中ですよ。

寅さんを演じた渥美清さんは1996年、68歳で亡くなりましたが、こうして映画の中で永遠に生き続け、昭和という時代を体現、記録してくれました。亡くなった後に国民栄誉賞を授与されていますが、記録映画としても大変貴重なものだと思うので、監督の山田洋二郎氏にも、ぜひ国民栄誉賞を。 (続く) ※当記事はツーリングマップル週刊メルマガにて2017年11月~2018年1月に配信した記事を再編集したものです。施設情報は変更されている可能性がありますので、訪問する際は事前にご確認ください。

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