2022.06.17

 "裏"ツーリングマップル!? -地図に載せきれない・載せられない取材ネタ- Vol.11 犬も目指した?伊勢神宮~

ツーリングマップルでは、毎年各エリアの取材担当がバイクで実走取材を行っています。取材は春から秋にかけて合計で約30日間ほど行われ(準備期間を含めるともっと日数をかけています)、その中で、担当者はいろいろな情報を入手します。しかし実際に地図上に載る情報は、その中のごく一部にすぎません。ツーリングマップルは本なので、スペースに限りがありますし、すごくおススメなんだけどたくさんのお客さんが一度にくると対応できない施設や、いつやめるか分からないお店なども…。そんなさまざまな事情で紙面に載せられなかった情報を、今回”裏”ツーリングマップルとしてご紹介していきます。 今回は関西担当の滝野沢さんから、前回の高野山の案内犬のお話に引き続き、「犬」に関わる話を紹介します。今回の舞台は伊勢です。

著・滝野沢優子

【詣でたのは人だけじゃないんです。主人に代わって伊勢詣でをした、「おかげ犬」】


江戸時代、庶民が伊勢神宮へ参詣する「おかげ参り」が大流行した。日本国民の6人に1人が参詣したといわれるが、歩いて何日もかかる旅のため、体が弱いなどの理由で行けない人の代わりに「飼い犬」に行かせることもあった。「代参犬」、「おかげ犬」と呼ばれ、近所で伊勢詣で行く人に託したり、なんと犬だけで行く例もあったそう。

伊勢参宮宮川渡しの図(画:歌川広重)にもおかげ犬の姿が

中央下部を拡大。確かに犬の姿が

【須賀川市にいたという「おかげ犬」の「シロ」】


我が家の近く、福島・須賀川市にも「おかげ犬」の話が伝わっていて、市内にある十念寺には「犬塚」が残っている。 その須賀川市に伝わる「おかげ犬」の「シロ」のお話。 庄屋の市原家の飼い犬、秋田犬のシロは、人間の言葉がわかり、買い物に行ったり手紙を届けて返事をもらってきたりと、利発さで有名だった。ある年、当主が病気になってしまい、毎年恒例だった伊勢参りに行けなくなった。そこで、シロに代参させようということになった。シロには道中必要になるであろうお金と 『食べ物を欲しがったら、与えてその分の代金を取って帳面に記入してください、また、この犬は人の言葉が分かるので道順を教えてあげてください』 という内容の手紙を入れた頭陀袋を首に下げて出立させた。市原家の人々は須賀川宿のはずれまでシロを見送り、朝晩神棚に灯明をあげて無事を祈った。 そして2か月後、シロは無事に戻ってきた。頭陀袋の中には、皇太神宮(内宮)のお札と奉納金の受領や食べ物の代金を記した帳面と、路銀の残りが入っていて、お金をごまかす人は1人もいなかった。それどころか、「重いだろう」と小銭を両替してくれたり、寝床を与えてくれたり、親切にされたらしい。シロは忠犬としてますます評判になったが、それから3年後に亡くなった。 以上

須賀川市の十念寺に残る「犬塚」

【伊勢に行ったらおかげ犬グッズも要チェックです】


「おかげ犬」は、浮世絵にも描かれているし、おかげ横丁の「お伊勢参り資料館」にあるジオラマでも、人間たちに交じって歩いている。また、おかげ横丁には「おかげ犬ショップ」もあり、いろいろなおかげ犬グッズを売っているので、犬好きなら必見だ。私も毎回、顔を出して新作があればすかさず購入している。

東海道五十三次 四日市 日永村追分 参宮道(歌川広重) 引用:メトロポリタン美術館

おかげ座の展示物

おかげ犬グッズの数々

犬の代参の様子(?)が描かれた手ぬぐい

【白い動物にはご利益が・・・?】


ところで、前回のコラムで紹介した高野山案内犬ゴンも白い犬だったし、須賀川の「シロ」も白犬。浮世絵などに描かれている代参犬も白。白い動物は神の化身だとも言われているが、飼うとご利益があるのかも?

おかげ犬シロの足跡を想像してみたい


今回のシロのお話、いかがだったでしょうか。 犬が人間の代わりに一匹で、福島から伊勢まで行く。しかも明確に「お参り」という目的を持ち、それを果たし帰ってくるというのは、びっくりです。いや、でも「数百キロ離れた場所に不慮に置き去りにされてしまった犬が、ちゃんと帰ってきた」なんて話も聞いたことがありますし、動物にもそういう力があるのかもしれません。それにしても、シロの旅路はどんなものだったんでしょうね。想像するだけでワクワクするし、出会った優しい人たちのことを考えてほっこりしたり、興味は尽きません。 みなさんも、ツーリングマップルを眺めながら、シロの足跡を想像してみませんか?

左:通常版(税込¥2,200) 右:R版(税込¥3,300)

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