2019.09.30

『千と千尋の神隠し』の温泉 ー「勝手にセレクト!極私的テーマ別温泉」by 滝野沢優子 vol.03

国内外問わず、さまざまな温泉をまわっている滝野沢優子さん(ツーリングマップル関西担当)による、「テーマ別おすすめ温泉」紹介。映画の舞台やモデルになった温泉から、特殊な立地や外観を持った温泉など、様々なテーマに応じた温泉が登場!温泉ソムリエの資格も持つ滝野沢さんのおススメを参考に、温泉ツーリングに出かけてみては!?

著・滝野沢優子

第3回 『千と千尋の神隠し』の舞台となった温泉


『千と千尋の神隠し』は、2001年に公開されたスタジオ・ジブリ制作の長編アニメ作品です。 興行収入308億円!ぶっちぎりで国内歴代興行収入第1位を記録し、2019年現在も破られていません。ちなみに記憶に新しい『君の名は。』(2016年)は4位で250億円です。3位は『アナと雪の女王』で255億円。2位は『タイタニック』(1997年)で262億円。 以下は興行通信社さんのページをご覧ください。 さて、『千と千尋の神隠し』。私的にも、ジブリ作品の中で一番印象に残っている作品です。日本と中国と西欧が混じり合った、あの独特な世界は何度見ても新鮮だし、温泉(湯屋)が舞台になっているのも興味深いところです。登場するのも不思議な生き物ばかりで、そういえば「カオナシ」という不気味なキャラクターも、この映画に出てきたんでしたっけ。 ストーリーは、10歳の女の子である千尋が、両親と車で引っ越し先に行く途中、トンネルを抜けた先で神々が住む不思議な世界に迷い込むところから始まります。無人の町で勝手に食堂の料理を食べた両親が、豚に変身させられてしまい、千尋は両親を人間の姿に戻すため、湯婆婆が経営する「油屋」という湯屋で働き始めます。 余談ですが、トンネルを抜けて最初に出てくる無人の町がオーストラリアの田舎町風なのですが、人間だけが突如いなくなってしまった感じが、福島第一原発被災地の町を彷彿とさせました。 その先いろいろあって、最後は無事に人間の世界に戻って来られるのですが、この映画の舞台でもあり象徴的な存在なのが、「油屋」という湯屋。赤い橋を渡った先にある、5階建て(4階?)の和風建築に中国テイストがミックスされたような建物です。広い館内は一部吹き抜けになっていて、いくつもの湯船や豪華な宴会場、従業員や湯婆婆の居住スペースなどがあります。 この「油屋」は実在するいくつかの温泉を組み合わせてイメージされているそうですが、モデルになったと言われているのが、以下の温泉地です。 ●四万温泉「積善館」(群馬県)

赤い橋を渡って行くところが、映画の中のイメージにぴったり。積善館本館の建物はレトロだし、本館から別館「山荘」へ行くアクセス路がトンネルになっているのもなんとなくそれっぽいです。 また、映画とは無関係ですが、ここではなんといっても「元禄の湯」が秀逸です。昭和5年に造られた和モダンな浴室で、独特なタイル貼りの床に石造りの浴槽が5つ並び、高い天井、アーチ型で大きく取られた窓からは外光がたっぷりと差し込み、内湯ながら明るく開放感もあります。

元禄の湯

お湯は肌に優しい透明なナトリウム・カルシウム-塩化物硫酸塩泉が掛け流し。「(強酸性の)草津の治し湯」として昔から有名でした。日帰り入浴もOKですが、2食付8000円以下で泊まれるプランや湯治プランもあるので、じっくりと過ごしてほしい宿です。木造の館内も大正・昭和風で落ち着けます。温泉街には共同湯もあり、ブラブラ歩きも楽しいですよ!

●渋温泉「金具屋旅館」(長野県) 「渋温泉」は、狭い道の両側に木造旅館が並ぶ、ノスタルジックな空気が漂う温泉街。9つある共同湯も魅力です。そんな温泉街の中でもひときわ存在感を放っているのが、「金具屋」。 シンボルでもある木造4階建ての「斉月楼」は昭和初期建築で国の登録有形文化財にも指定され、威風堂々としたファザードは貫禄たっぷり。渋温泉を代表する風景にもなっています。特に夕刻以降、灯りが点いた「斉月楼」は素晴らしいのひとこと。

渋温泉には何度か行っていて、2度ほど宿泊もしていますが、残念ながら、金具屋さんは外から眺めるだけで中に入ったことはありません。独自源泉が掛け流しで瀟洒な洋風浴室「浪漫風呂」ほか、8カ所もの浴室があるそうですが、日帰り入浴もやってないし、宿泊料金も私の予算的にはつらいうえ、そもそも1人泊は受け付けてくれないのです。 機会があってお金に余裕があったら、一度は泊まってみたいものです。ぜひぜひ、一人旅プランの設定、よろしくお願いします。ついでに料金は控えめでお願いします。

●道後温泉本館(愛媛県) 日本最古と言われる道後温泉を象徴する存在で、宮崎駿監督が訪れたことがあることから、「油屋」のイメージのもとになったと言われています。 大寺院を思わせる唐破風造りの荘厳な建物は西洋の技法を取り入れたトラス構造を用いた壮麗な三層楼となっていて、1994年に国の重要文化財に指定されました。建物そのものは、たしかに「油屋」のイメージに一番近いかも。 これだけの建築物でありながら、博物館などではなく、現役の公衆浴場として営業を続けているのが道後温泉の魅力でもあります。浴室は「霊の湯」、「神の湯」の2つがあり、浴衣、茶菓、休憩付きプランだと840円~1550円とやや高めですが、「神の湯」の入浴だけなら410円と銭湯並み料金なのもありがたいです。 ※道後温泉本館は現在工事中の為、2階以上は休館となっています。1階神の湯の入浴は可能です。 夏目漱石が通ったことでも知られ、「坊ちゃんの間」もあり、見学もできます。湯は残念ながら塩素消毒されているので、温泉好きにはイマイチなのですが、大勢やってくる公衆浴場としては仕方がないのでしょう。まあ、それを差し引いても素晴らしいことは間違いありません。 徒歩2分のところに、同じ源泉を使った共同浴場「椿の湯」があり、2017年9月には道後温泉別館「飛鳥乃湯泉」もオープンしました。

●武雄温泉の楼門(佐賀県) 先に述べた3つは、「油屋」のモデルとして、ネットで検索してもよく出てきます。 【赤い橋(四万温泉・積善館)+木造4階建ての建物(渋温泉・金具屋)+荘厳な唐破風造り(道後温泉本館)】という特徴も合っているため、その筋では定番(?)のようになっていますが、私は「武雄温泉(佐賀県)」もかなりイメージに近いのでは?と思っています。

国指定重要文化財に指定されている「楼門」や「新館」が、先述3温泉にはない中国風の雰囲気を持っているんです。白壁に赤や橙、緑が配された黒瓦屋根の建物が集まった一画は、中国のミニテーマパークのよう。 ここには共同湯のほか、総大理石の「殿様湯」や「家老湯」もあり、貸し切り利用できます。開湯1200年という古い歴史を誇り、著名人も数多く訪れている名湯です。

●まだある!「千と千尋的温泉」 ほかにも、銀山温泉(山形県)、鶴巻温泉の「旅館陣屋」(神奈川県)、江戸東京たてもの園の「子宝湯」(東京都)など、モデルと言われる温泉地・温泉宿がいろいろありますが、日本各地の温泉を巡りながら、映画のような風景を見つけるのも楽しいですね。みなさんも、「千と千尋の神隠し」を見直してから、上記の温泉地へ行ってみてくださいね! (続く) ※当記事はツーリングマップル週刊メルマガにて2017年11月~2018年1月に配信した記事を再編集したものです。施設情報は変更されている可能性がありますので、訪問する際は事前にご確認ください。

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