2021.07.01

『HOKKAIDER BASE(ホッカイダー・ベース)』物語 Vol.2

本日7月1日、ツーリングマップル北海道を長年にわたり担当している小原さんの店、「HOKKAIDER BASE」がオープンします。 そこまでの道のりを語るエッセイの第2回をお届けします。

著・小原信好

新たな伝説の始まりへ編


「タイム・トンネル」のホームページに書かれていたメッセージ(抜粋) ちょっと疲れた時、美味しいもが食べたくなった時、 久し振りの友達と会う時、何かを探している時、etc… ここに来ると「なんだか、落ち着くね」って言って頂くと嬉しくなります。 過去には戻れないので、今日一日、そして明日を大切に過ごしたいですね。

在りし日の「タイム・トンネル」の店内

とある日、『Out Rider』の取材で、「タイム・トンネル」のライダーハウスに宿泊した。夜はカフェで料理を食べて、お酒も飲んで、いつもより、ゆっくりと浦マスターとの会話を楽しんだ。 朝、マスターが宿泊者にモーニングコーヒーを淹れてくれる。香りの良いコーヒーを飲みながら、『ツーリングマップル』を広げて今日の行程を考えていると、宿泊していた若いライダーが、バタバタとパッキングをして、走り出そうとしていた。 するとマスターが彼に 「そんなに急いでどうする?まずエンジンを切って、一杯、コーヒーを飲んでいけ」 と話かけた。 はぁ、という感じでコーヒーを受け取って、我々と一緒に座ってコーヒーを飲み出した。すると、みるみる、焦り顔が穏やかになっていった。 「コーヒー一杯飲む時間を惜しんで走っても、何も変わらないぞ。心穏やかにしてツーリングしないと楽しくないし、危険なんだよ」 と、ゆったりとした語り口で話かけるマスター。 「ありがとうございます。落ち着きました。いろんな所に立ち寄りたくて焦っていました。寄るところを減らして走ります!」 「気をつけて、いい旅を」 とみんなで彼を送り出した。 また別の年のこと。秋も深まり、バイクで走るには風がかなり寒くなってきた頃、北海道取材の最後に「タイム・トンネル」に立ち寄った。しっかりと防寒対策をしていなかった自分を見て、マスターが厚手のベストをプレゼントしてくれた。 「バイクで走るのに、体が冷えるのは良くないぞ」 そんな感じで、いつも、マスターはバイクでの旅の楽しさと厳しさを教えてくれた。 毎年、「タイム・トンネル」に立ち寄るのが楽しみだった。「ツーリングマップル」の取材バイクを見せに行くのも恒例で、ビンテージバイクが好きなマスターだったが、バイク自体が大好きだから、最新のバイクを興味津々な感じでマジマジと見ていたものだ。たわいない会話ができる、自分にとって兄貴みたいな存在のマスターだった。 「また、来年、来ます!」が20年続いた。

浦マスターとの2ショットは珍しい

そのマスターが病気で亡くなってしまって「タイム・トンネル」は、閉店してしまった。奥さんの久美ママは、お店は継続しないと決めた。 マスターが亡くなってから半年がたった頃、久美ママから連絡をもらった。 「クマさん、お店、やらない?」 実は、旅人達が集まる自分のギャラリーカフェを経営したくて、旭川周辺で物件を探していたのだが、浦マスターにも相談していたのだ。 「まだ、物件が決まっていないなら、クマさんに引き継いでもらいたいの」 そう久美ママに言ってもらった。 伝説的で、カリスマ的な浦マスターの「タイム・トンネル」を引き継ぐのは、かなり荷が重いし、プレッシャーにもなる。しばし考えていると 「もう、好きにクマさんのホッカイダーの店にして良いのよ。またライダー達が集まる店が続くという事が大事だし、私たちもクマさんがやってくれたら嬉しい」

2019年10月10日、「タイム・トンネル」から「HOKKAIDER BASE」に

新しい伝説の始まりの日、久美ママと2ショット

「HOKKAIDER BASE」は2020年にプレオープン

そうして、2019年10月10日、「タイム・トンネル」を引き継ぐ、「HOKKAIDER BASE(ホッカイダーベース)」が始まった。旅人達が休息する場所にするために。

玄関上に立つ、風見鉄馬

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