2019.11.27

ツーリング前に知っておきたい!「あの映画・小説はココで生まれた」vol.4

漫画やアニメ、映画やドラマ、小説、歴史的事件などの舞台を旅する「聖地巡礼」がメジャーになってきた昨今。物語の舞台になった場所は日本中にたくさんありますが、案外、そのことを知らずにツーリングで訪れて満足していることも多いものです。 せっかく行くなら、その土地にちなんだ作品を鑑賞してから行ったほうが、絶対に楽しめますよね!そんな作品と土地について、『関西』担当著者の滝野沢優子さんから紹介していもらいます!気になった作品を見て、その場所を訪れてみましょう!

著・滝野沢優子

第4回 ドラマ「夢千代日記」(1981年~)の舞台


昭和の昔「温泉街」といえば、なにやら猥雑で淫靡な響きを伴っていたように思います。 高度経済成長の時代は、「社員旅行」という名目でおじさんたちがこぞって温泉へ出かけ、芸者を呼んで、大宴会を催し、「女体盛り」などという刺身料理を食べたり、宴会後は温泉街に繰り出してストリップ劇場やスナックなどで遊んだり、というのが定番の過ごし方だった時代です。「官官接待」なども大手を振って行われていました。そのためか、温泉街のお客の多くは男性でした。 実は私も、信州松本で過ごした大学1年生のとき、浅間温泉のお土産物屋でアルバイトをしていたのですが、毎夜、ストリップ劇場「オリオン座」の宣伝カーが温泉街を走っていたし、ときどき芸者さんも見かけました。また、夕食後にはあちこちの旅館から浴衣姿の酔ったおじさん客が大挙して出てきて、お土産を大量に買ってくれたものです。そのころ私は温泉には全然興味がなかったし、温泉街というのは大なり小なりそんなものだろうと思っていました。 ところが、バブルが弾けた90年代になると、こうした歓楽的温泉街は一気に衰退。大型旅館の倒産が相次ぎます。温泉芸者も見かけなくなり、ストリップ劇場なども過去の遺物となった一方、多くの温泉街は健全な雰囲気になり、女性同士や家族連れ客が増えていきました。歓楽的温泉街は昭和遺産的存在となり、時々、古い温泉街の一画に、かつての名残が見つかることがあるくらいで、消えゆく運命にあるようです。 1981年(昭和56年)放映のNHKドラマ「夢千代日記」は、そんな歓楽的温泉街だった、山陰・湯村温泉が舞台です。吉永小百合演じる夢千代は広島の胎内被曝者。白血病を患い余命短いながらも温泉芸者の置き屋を経営し、健気に生きる役柄です。若き日の秋吉久美子や樹木希林も芸者として登場、それぞれに悲しい人生ドラマを演じているのも興味深いです。 しかしそんなドラマの(ありがちな)ストーリーよりも、ワケありの温泉芸者、ストリップ小屋、旅芸人一座、広島ヤクザ、子供を斡旋する偽医者などなど、昭和の温泉街を構成する要素がてんこ盛りなのが本当の見どころだと私は思います。 当時の山陰本線車内や、まだ赤い橋梁だった「余部鉄橋」も登場するので、鉄道ファンの方も興味深く観られるのではないでしょうか。 どこの温泉地もそうですが、現在の湯村温泉には歓楽的雰囲気は残念ながら、まったく残っていません。温泉街の中心を流れる春来川沿いには夢千代像が建ち、ドラマに出てくる温泉街の一画を再現した「夢千代館」があるくらいです。といっても、そもそも「夢千代」の知名度がイマイチなので、おそらく多くの人はわからないのではないかと思います。

吉永小百合がモデルの夢千代像

夢千代館外観

私もリアルタイムでは「夢千代日記」を観てなかったし、初めて湯村温泉に行って「夢千代像」を見たときも、「誰?歴史上の人物でもないし、顔は吉永小百合じゃん」と不思議に思ったものでした。 でもそれじゃもったいないので、湯村温泉へ行く前には、「夢千代日記」を見ることを強力にオススメします!「夢千代日記」は続編も放映、その後映画や舞台化もされているので、ネットでもまだ見られると思います。 さて、改めて「湯村温泉」の紹介です。湯村温泉は兵庫県北西部、鳥取との県境にあり、山陰を代表する温泉地の一つで、848年(平安時代)開湯と歴史が古く、98度という日本屈指の高温源泉が豊富に湧いています。泉質はナトリウム―炭酸水素・塩化物・硫酸塩泉で、無色透明で匂いも味もないですが、重曹成分を含むためややトロりとした感触で、美肌にも効果があるし、野菜や食べ物のアクが抜けて食べ物がおいしくなるそうです。 温泉街は現在もそれなりに賑わっていて、共同湯「薬師湯」もあり、川沿いの源泉「荒湯」で温泉卵を作ったり、川で泳ぐ魚や鳥たちを眺めながら足湯にゆったり浸かったりする観光客の姿が絶えません。私も好きな温泉地のひとつで、何度か泊まっているし、取材時には必ず寄って温泉卵を作って持ち帰ったりしています。

湯村温泉 薬師湯 外観

湯村温泉 荒湯

温泉卵を作る

ところで、湯村温泉の住所はなんと「新温泉町」!同じ新温泉町内に浜坂温泉郷(七釜温泉、二日市温泉、浜坂温泉)もあるので、納得の町名ですね。(※編注:湯村温泉のある「温泉町」と、浜坂温泉郷のある「浜坂町」が2005年に合併し、「新温泉町」となりました) そのほか、隣接する鳥取県側には岩井温泉、鳥取温泉、吉岡温泉などもあり、小さいながら珠玉の温泉地が点在する、山陰きっての温泉エリアになっています。山陰の温泉というと城崎温泉が全国区で有名ですが、まだまだいい温泉がたくさんありますので、ぜひぜひ、お出かけくださいね! 関連リンク

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