think about
2026.03.06
【考察】バイクツーリングは「男の趣味」のままでいいのか
バイク関連のイベント会場は、どこへ行っても男性ばかり。女性はゲストやMC、ブースのスタッフには見かけるものの、来場客としてはあまりに少ない。これは道の駅やサービスエリア、パーキングエリアに行っても同様だ。体感では9:1、いやそれ以上かもしれない。 アウトドア趣味人口は総じて男性比率の方が高いが、ここまで男女比が偏っているジャンルも珍しい。登山やキャンプ、ロードバイクなどでは女性の姿をもっと自然に見かけるのに。なぜバイクだけがこれほどまでに突出して「男の趣味」になっているのか。当たり前のように受け入れてきたこの事実を、今回はあらためて考えてみたい。
【実際どれくらいの男女比なのか】
まずは免許統計を調べてみよう。実際に乗っている・いないは別として、「わざわざ」取る必要のある普通二輪と大型二輪の免許交付数を男女それぞれで合算してみた。 男性≒1639.6万(89%) 女性≒196.8万(11%) やはりおおむね9:1といったところだ。 ※同一人物が普通二輪と大型二輪を持っている場合は2カウントしている。これがそのまま「免許保有者数」ではない点はご注意を。
ツーリング先で女性ライダーと出会わない日なんてざらだもんねえ
【他のジャンルと比較してどうか】
では他のアウトドアジャンルの男女比も併せて見てみよう。「令和3年社会生活基本調査」を参考に比較したものが下図。やはり実態としてバイクが突出して「男の趣味」であることが浮き彫りになる。せっかくなので、ついでに僕らのYouTube「ツーリングマップルチャンネル」の視聴者男女比も見てもらおう。これがもう爆裂的数字なのである。笑える。泣ける。
山は、現地での体感としては女性の方がむしろ多い気すらする。山によるんだろうけど。釣りの数字は意外である。
我々のチャンネル視聴者の属性。99.2%が男性・・・おい本気か?
【なぜこんなに偏ってしまったのか】
そもそもなんでこんな構造になっているのか。このままでいいのかい。という話である(わしらのYouTubeもな)。 コロナ禍で一時ブームが来たかに見えた日本のバイク関連市場。「これでオジサンばかりだったバイク界隈に、若者や女性が増えるかも…」そんな期待感に業界全体が包まれた。ほわわ。でも実際のところ盛り上がったのは一瞬で、局所的だった。コロナが終わると完全に冷め切った。「キャンプブーム」の急激な沈静化もまあよく言われたものだが、あっちはもっと異常なほどの盛り上がりだったし、なんだかんだでそこそこ新規参入層も定着していると見える。未だに予約の取れないキャンプ場は多いし、行けばソロキャンしている女性や若い人もよく見かける。対してバイクはあまり「その後」につながっていない気がする。というか、そもそも本当にブームはあったのか?とさえ感じているライダーも少なくないのではないか。僕は幻だったと思っているのだが。
バイクブームは幻でした。
【そろそろ現実を直視しよう】
あの時うまく波に乗れなかった要因はいろいろあるのだろうけど結局、業界全体が「稼げるときに稼いどこう」と目先の売上に気を取られ、今回とりあげている「男女比問題」のような、構造的問題の解消に本気で取り組まなかったことが大きいのではないだろうか。なんて、生意気な仮説を立ててみる。もちろん「お前らはどうなんだ」と言われれば、何もできていないのだけど。(ブームなんて何の恩恵もなかったし、外出控えで売上激減。リストラ。それどころじゃない。そもそも僕らはバイク関連企業じゃなくてただの地図屋だったんだよな…。それがまた悲しい) あまり言いたくないけどブーム以降、業界は女性インフルエンサーを積極的に起用・活用してきた。それ自体は決して悪いことではない。ただそれは明確に「既存の男性ライダー(その人のファン)を呼ぶための施策」だった。だとすれば、新規参入につながらないのは当然だ。怒られそうだけどパチンコ屋がグラビアアイドルを呼んで集客するようなものだ。それもあって別もあるならいいと思う。でもあまりに偏り過ぎていた気はしないか(インフルエンサーが問題なのじゃなく、インフルエンサーの起用の仕方の問題だと思う) でも考えてみれば昔から、多少やり方の違いはあれど、もう何十年もそうだった気もする。既存顧客ばかりを相手にした広告、製品。それは確かに売上に直結する。でも市場全体の拡大にはつながらない。これもライダーが増えない原因なのかもしれない。
僕らのインフルエンサー(多用している)
【バイクって非合理・非効率でイカれてる】
もともと(ツーリング)バイクというのは日常生活とは縁遠い。非日常を楽しむためのものなのだ。その割にお金がかかる気がする。事故をすれば大けがを負うリスクが高い。リスクを減らすプロテクターなどの装備、いざというときの保険にもお金がかかる。冬走るなら防寒装備が必要だし、夏走るなら暑さ対策が必要だ。初期コストも高いし、たくさん乗るほどリスクもコストも増える。移動手段として考えるなら、 「車でいいじゃん」 この一言で片づけられる。一般感覚からすると、それだけ非合理・非効率で、選ぶ理由がない。そうやって家族にバイクを止められた人も多いだろう。こんなバカげた趣味に入って行けるのは、頭のイカれた人だけなのだ。そして頭のイカれた人はやはり男性の方に多かった(偏見)。
「なんであんなものに乗るんだ!」って説教し始める人がいるくらい。ぐあー!うるせー!
【こんな楽しいことをオジサンに独占させていいのか】
金がかかるし暑いし寒い。キケンが多いし疲れるしコケる。しかしそれでも乗る人がいる。乗る価値がある。その価値は車や自転車では代えがたいのだ。外界と自分を遮るものはなく、全身でその土地の空気を味わいながら旅する心地よさ。風景と一体になるスピード感。移ろい変わる草木や海、工場や牧場のにおい(クサい)。無事自分の街に帰ってきたときの安心感。それらのすべてが楽しい。どんなにつらかったツーリングも思い返すと笑えてくる。何度でも話したくなる。 この楽しさを、オジサンだけのものにしていてよいのか。よかないだろう。考えてみてほしい。他のアウトドアだって、それなりにお金がかかるし大変だ。山に登れば遭難、滑落、クマに遭う危険がある。自転車にも事故の可能性がある。バイクよりよほど疲れるし、行ける距離だって限られる。キャンプなんて、道具がたくさん要るし揃えるにはかなりの金額が必要だ。キャンプ場まで行く車も欲しい。焚火をすればやけどする。薪割で大ケガすることもある。冬のキャンプはクソ寒いし、夏は虫だらけ。何にだってリスクはあるのだ。それなのにバイクだけことさらに遠ざけられるのはなぜか。
「あ、どうも。わたしがキケンです」
【バイク=不良という根強い偏見】
バイクにあまり良いイメージを持っていない人は多い。なぜなら日本のバイク文化には【暴走族・反社会・騒音・危険・迷惑…】といった負の記憶が強く残っているからだ。そのせいで「三ない運動」なんてものが長く続いた。その影響は計り知れない。悲しいかな、バイクを取り巻く環境は閉じられたままで、長らくそんな負のイメージを払拭できていない。「車でいいじゃん」という言葉は、「バイク」の魅力が全く外に伝わっていないことを、実に端的に表している。 だけど今、僕らが楽しんでいる「バイク旅」の文化には、今書いたような負のイメージはほとんど当てはまらないはずだ(※やや願望含む)。
いまだに「バイク」と言ったらこういうのをイメージしちゃう人が少なくないのでは。まあ実際まだいるしな。不良マンガもなぜか人気が高いし
【じゃあ、どうすりゃいいのか】
今回のテーマはバイクツーリングがあまりにも「男の趣味」に偏り過ぎちゃいないかって話。それ自体は別に責められるものじゃない。未だ男性が多いからこそ「不器用で泥臭い何か」が残っている面もあるだろう(好きか嫌いかは別としてね)。ただこのままだと「市場」としても「文化」としても、細っていくしかない現実がある。 だけどもし女性比率が増えれば、総バイク人口も増えて市場が活性化するだろう。文化面でも、旅のスタイル、例えば食・写真・ファッション・コミュニティなどは多様になってくるだろう。僕らがこれまで見向きもしなかったものが脚光を浴びるかもしれない。新しい発見だ(ワクワクする)。それを受けてまた市場が広がる。車両の外観(形状やカラーリング)、機能や性能だってもっと多様になるだろうし、ダサいダサいと言われがちなウェアだってもっと洗練されるかもしれない。山は山ガールが増えて、ウェアの市場が一気に華やかになった気がする。それだけじゃなく、ライト層が増えて低山の魅力が広く知られるようになったし、ギアの選択肢も広がった。安全意識やマナーもアップデートされている。キャンプ、自転車、ゴルフも全部この20年で相当進化した。バイクはどうだろうか。 何も進化していないとは言わないが、このままだと本当に業界が存続できなくなるんじゃないだろうか(言うてツーリングマップルだってけっこう危ない)。 じゃあ女性に(も)入ってきてもらうためにはどうすればいいのか。
様々な属性の人が増えることでニーズが多様化し、市場が活性化する。安全意識やマナーも改善していく(理想)
【ハードルを下げるんじゃなく、入口を増やす】
よく、男女の身体能力の差をカバーするために「バイクを軽くしよう」とか「足つきをよくしよう」という話がある。大事なことだけど、それはもうバイクに乗る段階まで来た人に向けた「ハードルを下げる」対策だ。そうでなく、バイクに興味を持ってもらう「入口を増やす」施策をもっと増やさないといけない気がする。バイクの入口は、これまで「免許」しかなかった。お試しも何もなく、いきなり十万とか二十万払って教習に通うしかないのだ。だが本来「入口」とは「旅」や「体験」であるはずだ。「こんな旅がしてみたい」「なんかバイク乗るの、楽しそう」その出会いの場をもっと創出する必要があるんじゃないか。例えば ・免許がなくてもできるツーリング体験 クローズドな環境で運転してみる、タンデムしてみる、最初はVRとかでもいいかもしれない ・女性や非ライダーも参加しやすいバイク関連イベント いっそバイクイベントじゃなくて旅をテーマにしたイベントでバイク旅を紹介するとか ・WEBやSNS、雑誌などでバイク旅の提案 車や鉄道、自転車や徒歩と並ぶ選択肢のひとつとして提案。これはうちみたいな会社こそやるべきことなんだろう。例えば女性向けの旅雑誌(OZマガジン、ことりっぷマガジン、Hanakoなど)でバイク旅を紹介するとかね…。 まあ、いま考えただけなので、安直なものばかりだけど。
【イヤな思いをさせない】
次に、せっかく興味を持って入ってきた人にはできるだけ定着してほしい。そのためには何よりイヤな思いをさせないことだ。バイク旅は、特に初心者にとっては物理的にも精神的にもストレスが大きい。そういったしんどさはさっきも書いたけど、あとで思い返すと笑える種類のものだ。「辛かったけど楽しかった」。良性のストレス。しかし悪性のストレスがある。それは既存ライダーがやりがちなことだ。 ・プレッシャーにしかならない過剰な心配・おせっかい ・いきなり始まるバイク講釈(長い) ・おなじみ排気量マウンティング(とアンチ大型の戦い) ・スパルタ教育論(これもある種のマウンティング) ・他人のバイクにいちいち難癖 こういうのは控えるよう、現役ライダーは心掛けたい。「あーなんかバイクってめんどくさい。自分には合わないかも」と離脱させてしまったら、結局自分が損をするのだ。
【これから乗る人を、どこへ導くのか】
文化は人が作る。新しい人を迎える覚悟があるかどうか。それがこれからの日本のバイク界を決めるだろう。ただの地図屋が偉そうに語ってきたけど、業界の人はみんな、とっくに考えていると思う。個人でがんばってる人もいる。でももっと大きく、深い話をしないといけないと思う。そしてライダーの一人一人が、もっとウェルカムな姿勢を持ってほしい。 バイクが男の趣味であること自体は悪ではない。でもこの、非合理で遠回りで面倒な、だけどどうしようもなく楽しい世界が、一部の人間にしか届いていないのだとしたら、単なるイメージで敬遠されているのだとしたら、それはあまりにももったいなくないか。 風は、誰にでも吹いている。その風にもっと多くの人が触れられるようにすること。それが、これからのバイクツーリング文化が目指すべきことではないだろうか。地図屋の僕らの仕事は、その風の通り道を描くことかもしれない。