2020.02.04

ツーリング前に知っておきたい!「あの映画・小説はココで生まれた」vol.8

漫画やアニメ、映画やドラマ、小説、歴史的事件などの舞台を旅する「聖地巡礼」がメジャーになってきた昨今。物語の舞台になった場所は日本中にたくさんありますが、案外、そのことを知らずにツーリングで訪れて満足していることも多いものです。 せっかく行くなら、その土地にちなんだ作品を鑑賞してから行ったほうが、絶対に楽しめますよね!そんな作品と土地について、『関西』担当著者の滝野沢優子さんから紹介していもらいます!気になった作品を見て、その場所を訪れてみましょう!

著・滝野沢優子

第8回「屋根をかける人」の舞台=近江八幡


琵琶湖の東岸に位置する近江八幡。

▲近江八幡の風物詩「水郷巡り」

豊臣秀次が築いた城下町であり、近江商人発祥の地として知られています。湖東きっての観光名所でもあり、町中に張り巡らされた水路をめぐる「水郷巡り」が人気ですよね。特に白雪橋から見る、白壁土蔵が並んだ八幡堀は、近江八幡を代表する風景。時代劇のロケ地にもよく使われています。 最近では、近江八幡といえば「クラブハリエ」!という認識の方も多いのではないでしょうか。「クラブハリエ」は近江八幡の老舗菓子店「たねや」の洋菓子ブランド。とくにバームクーヘンは絶品で、ふわふわ、しっとりの食感は一度食べたら病みつきに!滋賀県内を中心に本支店があるほか、全国各地の百貨店でも販売されていて、もらってうれしい引き出物の上位にもランクインしています(たぶん)。

▲ラ・コリーナ:新緑の季節にはこの風景が鮮やかなグリーンに一変する

近年は近江八幡市郊外にメインショップ「ラ・コリーナ」もオープン、琵琶湖の新しい観光スポットにもなっていると同時にブランドイメージもますますUPしています。 近江八幡が、同じ湖東の城下町である彦根、長浜と比べてなんとなくお洒落なイメージがある(あくまでも私的にですが…)のは、「クラブハリエ」があるからだと勝手に解釈しているのですが、もうひとつ、ウィリアム・メレル・ヴォーリズと、ヴォーリズ建築の存在も大きいと思います。

▲ヴォーリズ像

ウイリアム・メレル・ヴォーリズは1880年(明治13年)、アメリカ生まれの建築家、事業家、伝道者で、1905年(明治38年)、24歳のときにアメリカから英語教師として来日、近江八幡の高校に赴任しました。校長と対立して2年で解雇されるも、その後も近江八幡に留まり、キリスト教伝道の傍ら、西洋建築の設計を数多く手がけました。その一方で「近江兄弟社」を設立し、「メンソレータム」を日本全土に普及させ、「青い目の近江商人」とも称されるなど、事業の才覚もあったようです。

▲近江兄弟社:当初メンソレータムを販売していたが、紆余曲折あり現在「メンソレータム」関連商品はロート製薬が販売、近江兄弟社は「メンターム」ブランドで商品展開をしている

1919年に華族の女性・一柳満喜子と結婚、太平洋戦争勃発直前の1941年(昭和16年)には日本に帰化することを決意、日本名「一柳米来留(ひとつやなぎめれる)」を名乗りました。 ヴォーリズが造った建築物は、シンプルながら洗練されたデザインで使い勝手がよく、全国各地から注文があったようですが、やはり滋賀県内、特に近江八幡に多く残されています。「旧八幡郵便局」、「ハイド記念館(ヴォーリズ学園旧幼稚園舎)」、「ヴォーリズ記念病院」ほか、古い日本家屋が並ぶ町並みの中にごく自然に溶け込んでいます。そんな街並みが、近江八幡をちょっとハイソなイメージにしているのかなと思います。

▲旧八幡郵便局:1921年(大正10年)の建築。使われなくなり空き家として放置されていたが、まちづくり団体「一粒の会」が保存再生に取り組み、現在は一般開放されている。

▲ハイド記念館(ヴォーリズ学園旧幼稚園舎):2003年まで幼稚園の園舎として使用されていた。一般開放されている。

というように、ヴォーリズは近江八幡に大いに貢献したことから、1958年には近江八幡市最初の名誉市民にも選ばれています。 そんなヴォーリズの日本における半生を(フィクションとして)まとめたのが、2016年刊行の「屋根をかける人」(門井慶喜著)。 今まで、断片的な知識しかなかったヴォーリズの生涯と、近江八幡とのかかわりがトータルでよくわかりました。太平洋戦争時も日本に留まり、軽井沢に避難していたことや、大同生命の創始者・広岡浅子との交流などもあったんですね。また、終戦後に昭和天皇の処刑の回避と天皇制を守ることを近衛文麿を通してマッカーサーに提言したという事実は、この本で初めて知りました。 あくまでフィクションとのことなので、事実とは違うのかもしれませんが、昭和天皇と京都御所で面会するラストの場面は、感動的でした。 今回、ヴォーリズと近江八幡のことを書こうと決めたものの、そういえば映画にもTVドラマにもなってないし、じゃあ小説はあるだろうかと探して見つけたのがこの一冊だけ。しかもごく最近に書かれたものでした。 これだけの功績がある人だから、もっと話題になってもいいはずなのですが、今まで本にもなってなかったのは、何か事情があるのでしょうか。大同生命の広岡浅子も、NHKの朝ドラになったのだから(「あさが来た」2015年)、ヴォーリズのこともドラマになったらいいのに、と思います。 ついでですが、近江八幡は「飛び出し坊や」の宝庫でもあるんですよ!

▲水郷めぐりの船頭さん(?)坊や

▲丁稚坊や

学生服を着ていたり、白衣姿でメンソレータムを持っていたり、丁稚姿だったりと、他では見られない、いろんなバージョンのオリジナル飛び出し坊やが見られます。町を散策しながら、飛び出し坊やを探して歩くのもおもしろいので、ぜひに!

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