2022.06.29

昭和から平成へ ホッカイダー小原信好の 「AROUND THE JAPAN 日本一周35000kmの旅」vol.6

今も昔も、旅人にとって「日本一周」は憧れの旅。お金があっても、時間があっても、簡単にできることではありません。誰もができるわけではないから、日本一周をしている旅人を見れば応援したくなるし、達成した人には賞賛と尊敬の念を抱いてしまいます。 今から30年余り前、「昭和」が「平成」に移ろうとしていたあの頃、盛岡の青年、小原信好氏がバイクで日本一周の旅に出発しました。青年の日本一周を通して、当時の時代背景や、長旅にまつわる苦労や出逢い、喜びに触れてみましょう。 ※当記事はツーリングマップル週刊メルマガにて2019年1月~4月に配信した記事を再編集したものです。前回までのお話は本記事末尾の関連記事リンクからどうぞ

著・小原信好

<第6回 旅は道連れ 瀬戸内海~九州上陸編>


前回の第5回、四国の宿でのアルバイトや、八十八ヶ所巡りの旅を終えて、再び本州へ上陸したところから…。 四国から本州に戻って最初の夜は、神戸市「六甲山」の麓の小さな公園に、道から見えないようにテントを張った。「天覧台」(関西99F-6)から見る神戸の夜景は素晴らしかったが、カップルだらけで、お呼びでない髭面の小原青年はそそくさと退散する。 雨の中を走り「兵庫県庁」に到達。そのまま国道2号を西へと走り進む。今や世界遺産の「姫路城」(関西96B-2・中国四国26F-6)も外から見ただけ。雨だとテンションはだだ下がりだ。

天覧台(六甲山上展望台)お昼の風景(引用:まっぷるトラベルガイド)

こちらが夜景(引用:まっぷるトラベルガイド)

ダダ下がりのテンションをさらに下げる事態に…


そして、岡山県岡山市手前を走行中、突然左折してきた車と衝突事故。バイクに傷はほとんど無かったが、アクセルを握っていた右手が車のボディに当たってしまった。骨折はしなかったものの、右小指打撲と爪に怪我を負ってしまう。現場検証と病院での検査、その後の処置のため「岡山県青年会館YH(ユースホステル)」(2008年閉鎖)に連泊する事になった。

国道2号岡山県で遭った事故。現場検証

旅仲間との出逢い


そんなYHのある日、夕方になると、ヘルメットから長い髪をなびかせながら「HONDA VF400F」に乗ったライダーがやってきた。先に到着していた他のライダー達と 「お~!女子ライダー来た~!」 と盛り上がる。しかし一同の注目を集めながら、当のライダーはヘルメットを脱ぎながら 「男だよ!まったく~」 と、予想外のひと言。しかし美青年である。彼は東京から来た日本一周中のヘビメタライダー「サブロー」だった。よくよく見れば身長170cm以上でかなりガタイが良い。もちろん、「女子間違えられ」の話題で夕飯時は盛り上がった。 さて、旅を再開した小原青年は「岡山県庁」に到達したのだが、その2日後にサブローと国道2号で再会した。結局また5日間、彼と一緒に行動する事に。さらにその途中で「福山大学」に通う大介とも知り合い、彼の下宿先「末広荘」でサブローと二人、プチ居候することになった。大介の友人の他の学生とも仲良くなり、毎晩宴会をして盛り上がった。 しかし、いつまでもそんなことをしているわけにはいかない。「旅の目的を見失ってはいけない」と、泣く泣くお世話になった「末広荘」を出発した。

「尾道三部作」の聖地巡礼へ


私は大林宣彦監督の作品で、広島県尾道市を舞台とした映画の「尾道三部作」が大好きだ。だから尾道は、ロケ地巡りをするために必ず立ち寄ろうと決めていた。 「転校生」(1982年公開)で主人公の二人が転がり落ちた神社の階段や、「時をかける少女」(1983年公開)の登校シーンに出てくる坂道や、「さびしんぼう」(1985年公開)に登場する陸橋など、坂と狭い道幅に苦しみながらも、サブローとバイクで巡った。巡りながら、映画のシーンを思い出していた。 今でいう聖地巡礼に大満足したところで、サブローとは広島県竹原市「JR大乗(おおのり)駅」(中国・四国57C-1)で別れた。やがて向かう九州、熊本県阿蘇市「大観峰」(九州26B-2)での再会を約束して。

そしてまた新たな旅仲間が登場


車との衝突事故で負傷した右手小指の消毒と包帯の取り換えのため、各地で病院に立ち寄りながらバイクを西に進める。「広島県庁」に到達。 とある河原で日向ぼっこ休憩をしていると、「Kawasaki KL250R」に乗ったライダーが「日本一周ですか?僕も日本一周中です」と話しかけてきた。 三重県伊勢市を出発した彼は、旅に出る前は親友の家で怠惰な毎日を過ごしていたという。あまりにダラダラしていたのだろう、親友の父親に「バイクで日本一周に行って来い!」と追い出され、渋々旅をしているという。そんな珍しい動機の旅ライダーだった(笑)。そしてせっかくなので、九州上陸まで一緒に走ることになった。 先日、サブローと別れたばかりだったが、また同行人ができた。彼はまだライダーネームが無いという。二人の旅は、行き先未定のお気軽旅、まるで「弥次喜多道中」のようなので、相方の彼を「喜多八」からとって「八つあん」と呼ぶことにした。クマさん、八つあんの二人旅が始まった。 「錦帯橋」「岩国基地」「屋代島」などを巡り「山口県庁」に二人で到達。山口県美祢市「秋吉台」(中国・四国53EC-3)の展望台でテントを張っていると、パトカーがやってきて恒例の職務質問だ。「火には気をつけて」と警官は帰って行った。まだ大らかな時代だ。安心して、近くにあった宿の日帰り入浴に行くと、湯船に垢が浮き出してビックリ!八つあん、お風呂が嫌いで、久しぶりの入浴だという。マジか~!二人でセッセと垢取りに精を出すことに(苦笑)。

宮島・厳島神社にて

山口県・秋吉台

出会いと別れ、再会を誓い、ライダーはそれぞれの道へ…


翌日は、八つあんと下関市で待ち合わせをして別行動。自分は萩市経由で日本海に出た。途中、天気も良いのでエメラルド色の海が美しい「土井ヶ浜」(中国・四国52C-1)でパンツ1枚になって、遠くに見える「角島」を見ながら日向ぼっこ。急ぎ旅じゃなくて、時間があるって幸せだ。今は絶景橋としてライダーにも超有名な「角島大橋」(中国・四国40C-7)は、この頃は未だ無かった(※角島大橋は2000年11月開通)。 再び下関市で八つあんと合流し、「関門トンネル」を通過。憧れの九州に上陸した!九州初の食事は「リンガーハット」で「長崎ちゃんぽん」。初めて食べる「長崎ちゃんぽん」は安くて美味しかったなぁ!その夜は「和布刈(めかり)公園」(九州2K-1)にテントを張り「関門橋」の夜景を見ながら八つあんと乾杯! 翌日から別々に旅をすることに。八つあんも、小原青年とサブローが再会を約束した熊本県阿蘇市「大観峰」(九州26B-2)に集合する事となり、それまでしばしの別れ。短い期間でも、楽しい行動を共にした、よく気が合う人と別れるのはちょっと寂しい。だがやはり旅は、一人旅が基本。少し孤独なくらいが丁度良い。まるでマンガ、新谷かおる著「左のオクロック」のように二人は、お互いの目的地に向かってバイクを走らせた。 次回は、一回では書ききれない程、怒涛の出逢いがある九州編に突入!

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